 |
 |
|
|
|
 |
 |
||
 |
妖犬"八房"の巻 ～南総里見八犬伝～（上） （下）
俺だけの白い犬の巻 ～白い犬とワルツを～ |
||
 |
 |
||
|
|
|
|
いよいよ今年も終わりに近付いてきました。今までいろいろな犬たちの物語を見てきましたが、子ども向けのものも多かったので、最後は大人向け、やがて歳をとる私たちみんなへ、比較的新しいお話を紹介したいと思います。 「きょう妻が死んだ。結婚生活五十七年、幸せだった。」 日記にこう１行書かれた、その日から物語は始まります。一途に木を愛し、苗木を育てる仕事をしてきた、平凡で幸せな、それでも数々の思い出に彩られた老いた男「サム・ピーク」。 そう、確かにサムは幸福でした。大勢の子供達、孫たち、昔からの友人。１人だけは若くして亡くしてしまったものの、７人の息子や娘、その配偶者たちに囲まれ、歩行器に掴まりながらも、１人でもちゃんと暮らしていこうと、少しづつ身の回りのことに手をつけ始めます。 妻が死んだ後、どこからともなく現れた不思議な白い犬。父を心配する子どもたちには、なかなか見ることができない、遠くから見ることができても触ることができない、彼だけの真っ白な犬。犬も次第にサムになついて、妻の墓参りについて来るようになります。 歩行器に前足をかけて、一緒にゆっくり前へ後ろへ右へ左へ、とサムと白い犬は踊ります。何もしゃべらない、吠えない、他の犬にも吠えられない犬。明け方の薄闇の中、光るように白い、グレーハウンドのような細い犬。 子どもたちは、父がボケ始めたのではないか、と気にかけます。「犬の幽霊だ」と考えるものもいます。それでも、サムにとって白い犬は、次第にかけがえないのない相棒になっていきます。
「ふたりして野原を歩きまわった後、ここにやって来たときのことがありありと思い出される。わが生涯最良の日だった。 ～ わたしの白い犬は今、木立ちのなかを走りまわっている。あの娘もわたしと同じくらい、ここが気に入っている。」 「白い犬はお前たちのママだった」という言葉を残して、サムは誠実で愛に満ちた、あくまでも自分らしく生きた長い生涯を閉じます。 白い犬は、本当はなんだったのでしょう？不自由な体の夫を残して先に逝ってしまった妻が、姿を変えてやって来たのでしょうか？ そういえば、昔、私の義兄が亡くなったとき、縁側にいた義母が「ムジナが来た。あれは、兄ちゃんが姿を変えて、自分の葬式を見に来たんだ」と言い張ったことがあります。うちの田舎では、ムジナはイタチか何かのことです。 イタチはそれきりでしたが、白い犬は、サムがとうとう観念して、娘たちが住み込みでやって来る日まで、サムに寄り添ってくれました。 妻を先に亡くした男は長くは持たない、と言われますが、サムは白い犬を相手に、最後まで余生を生き抜き、その様子が淡々と描かれています。夢の中や回想で語られる妻への深い愛情は、感動の涙を誘いますが、お話全体の印象は潔く爽やかです。 私たちは、老後に白い犬が来てくれるような生き方をしているでしょうか？そんなことを、ふと考えてしまう、静かで不思議な物語です。 （良いお年を） 前回へ 完 |
||
|
|
|
|
|||
| ＜おすすめ参考図書＞
|
||||
白い犬とワルツを |
白い犬とワルツを |
|||
|
|
|||